腱鞘炎で物が持てない、激痛で箸を使いにくい、パソコン操作がどうにもこうにもならないそんなみなさんに、腱鞘炎についてかなりくわしく解説してみました。
難しい医療用語もできる限りわかる言葉に置き換えていますので、腱鞘炎が治らないみなさん必見です!
腱鞘炎とは?腱鞘炎のメカニズムをやさしく解説
腱鞘炎の原因や治療、リハビリを考える前に、そもそも腱鞘炎って何なのでしょうか。
それを理解するためにはまず腱鞘を理解する必要があります。いろんなサイトを見ていてると、それを飛ばしているので表面的な理解しか得られないのです。
腱鞘とは「腱(けん)の鞘(さや)」のことです。
まず腱とは筋肉の両端部分にあるスジ状の部分です。いわゆるみなさんがおっしゃっている「すじ」とはちょっと違います。おそらく「すじが違って・・・」と表現しているのは筋肉の本体です。だって「すじ」を漢字で書くと「筋」ですからね。
ごちゃごちゃいうよりイラストを見た方がわかりやすいですね。
こちらは短母指伸筋です。親指の腱鞘炎では長母指外転筋と短母指伸筋が関わってきます。
この筋肉の本体(筋腹という)は◯で囲んだところだけ。あとはひもみたいなやつありますが、これが腱です。
ほとんどの筋肉は筋肉の本体の両脇がスジ状の腱になっています。
次に鞘の話です。
鞘といえば刀の鞘を思い出す人が多いと思いますが、刀の鞘は刀が収まるところです。腱の鞘もそれと同じで、その鞘の中に腱が収まっています。
では腱鞘はどんな役割をしているかというと、大きくふたつの役割があります。ひとつは腱がいろんな方向にいかないようにある程度固定(完全に固定するわけではなく抑えつける程度)すること。そして固定することで腱の動きを定めて筋力を発揮しやすくします。
私は腱鞘炎を説明するときにいつもズボンのベルト通しをイメージしてもらっています。
ベルト通しにはベルトが通っていますが、このベルト通しが腱鞘で、ベルトが腱だとしてください。
ベルトが行ったり来たりして、このベルト通しの部分でこすれると熱を持ったり、ベルトかベルト通しの部分が傷んできそうじゃないですか。
親指の腱鞘炎ではまさにこれと同じ現象が起こっていて、先ほど紹介した長母指外転筋と短母指伸筋の腱が腱鞘の中を行ったり来たりして熱を持ったり、腱鞘自体が肥厚(病的に分厚くなる)したりします。
手の親指で起こる腱鞘炎はドケルバン病(=ド・ケルバン腱鞘炎、狭窄性腱鞘炎)と呼ばれています。
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腱鞘炎の症状は?
腱鞘炎には実は前兆があります。パソコンでキーボードやマウスを使っているとき、「なにか手がだるいなぁ」と無意識に手をぶらぶらさせていませんか。この手がだるいという感じが腱鞘炎の前兆症状となることあります。
腱鞘炎が起こればメインとなる症状は痛みです。しかも人によっては激痛。患者さんにどんな痛みか聞くと、ずきずき、ギシギシ、ズキーン、ピキッと表現されます。
腱鞘炎は腱鞘に起こる炎症なので熱がでます。あとむくみも出ますが、これは実際にはむくみというより腫脹(=腫れ)が正解です。
腱鞘炎の症状では痛みと腫脹と熱感が主ですが、しびれを訴える人もいます。ただし腱鞘炎と手根管症候群がごっちゃになっている場合もありしっかり区別しましょう。
ちなみに腱鞘炎では骨には変化はありません。ですから純粋に腱鞘炎だけならレントゲン撮影をしても骨自体には問題がないはずです。
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腱鞘炎の原因は?
腱鞘炎は基本的には腱と腱鞘が過度にこすり合わされることによって起こります。実は腱と腱鞘の間には特殊なコーティングのようなものが施されていて、普通に使っているくらいなら炎症が起こりにくくなっているのです。
- 原因となるものとしては、
- パソコンのマウスやキーボード
- スマートフォンの操作
- 書字
- レジ打ち
- 楽器(ピアノ、ギター、フルート、クラリネット、ドラム、パーカッションなど)
- はさみをよく使う美容師やトリマー
- バイク
- 自転車
- 絵描き(画家)
など過度に指を使用することで起こります。
最近多いのはスマートフォンを使う人で、片手で持って親指でフリックする人。通勤や通学で長時間使う人は要注意です。
あと私もこれは経験しましたが、腱鞘炎は育児と関係が深いです。
子育てをされたことがある人ならわかると思いますが、赤ちゃんを抱っこしたときに赤ちゃんが体を反らすと、落とさないように慌てて引き寄せようとしますよね。このときに手の親指を開いて反る(運動学的にいうと親指の外転と伸展)方向に力が入ります。
これが腱鞘炎の原因となる長母指外転筋と短母指伸筋を過度に使うので、腱鞘炎を引き起こします。抱っこと腱鞘炎の関係は実に深いです。腱鞘炎はパパ・ママ病ですね。
あと妊娠中や産後の女性、閉経後の女性が腱鞘炎になることが多く、ホルモンバランスとの関係もあります。
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腱鞘炎の場所は?起こるのは親指だけ?
今回は腱鞘炎で一番多い手の親指の話をしているのですが、実は腱鞘炎は手の親指以外にも起こります。たとえば足首周囲でも起こることがあります。
ここまでの説明でもご理解いただけると思いますが、腱鞘は手だけにあるわけではなく、体のいろいろな部分にあります。特に手や足の周辺の筋肉は先ほどご紹介した短母指伸筋のように腱が長く、腱が長い筋肉があるところには腱鞘が存在します。
腱鞘が存在し、炎症が起こるような事象があればそこに腱鞘炎が発生する可能性があります。
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腱鞘炎とばね指は同じなの?
実は有名なばね指も腱鞘炎とのひとつです。
指には屈筋腱を押さえるために靭帯性の腱鞘があります。この指の腱鞘に炎症が起こって、ひっかかりが生じるのがばね指です。
ですから意外かもしれませんが、ばね指も親指も腱鞘炎も発生するメカニズムは同じなのです。
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腱鞘炎は病院ではどこを受診する?
腱鞘炎が疑われたとき、病院では何科を受診すればいいのでしょうか。
腱鞘炎は筋肉の腱や腱鞘に起こる疾患ですので整形外科の領域になります。
ただし手根管症候群のところでもお伝えしましたが、手を専門に診察している医師はかなり少ないです。(膝や股関節、肩関節、腰は多いですが)
もちろん開院されている整形外科医でも診察は可能ですので、まずは近くの整形外科医院や病院の整形外科を受診して、さらに詳しく診てもらう必要(例:手術が必要など)があれば手の専門医を紹介してもらってください。
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腱鞘炎の検査は?どのようにチェックするの?
腱鞘炎でフィンケルシュタインテストが有名です。
腱鞘炎が疑われる手の親指を他の四指にしっかり握り込みます。
その状態で尺屈(小指側に倒す)したときに手首の親指側の痛みがさらに強くなれば陽性です。
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腱鞘炎の治療は?
腱鞘炎はどんな治療になるのでしょうか。
まず腱と腱鞘の過度なこすり合わせが原因で起こることが原因になるなら、まずはその炎症を抑えてあげないといけません。具体的には原因となっている動きを一時的に控えたり、サポーターやシーネで固定します。ただし固定して一時的に痛みが改善しても、同じ動きをまた行うと再発するので注意が必要です。
炎症が強く熱を持っている場合にはアイシングも行いましょう。
それと並行して、投薬(痛み止めの飲み薬や湿布)、リハビリ(後述)ステロイドの注射を腱鞘に打ったりします。最悪の場合は腱鞘を開く手術に至るケースもあります。
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腱鞘炎では手首に湿布を貼る?腱鞘炎の湿布の貼り方
腱鞘炎ではどこに湿布を貼るべきかご存知ですか?
普通に考えれば腱鞘が炎症を起こしているので腱鞘に貼るべきでしょう。
もうひとつ、原因となる筋肉も痛んでいたり、凝り固まっているために良い動きをできない可能性がありますので、長母指外転筋と短母指伸筋の筋腹にも貼るべきでしょう。
場所は少しわかりにくいですが、前腕のこのあたりです。
腱鞘炎のリハビリは?
腱鞘炎ではどのようなリハビリが行われるのでしょうか。
まずは原因となる動作を行わないように安静を指導します。また先ほどもお伝えしましたが、腱鞘部に熱感がある場合にはアイシングも指導します。
超音波やレーザーなどの物理療法を行う場合もあります。
他の疾患のリハビリではストレッチを指導することが多いのですが、腱鞘炎ではストレッチをするべき方向が先ほどのフィンケルシュタインテストの方向になります。
この方向にストレッチをかけると強い痛みをだすのであまりおすすめできません。腱が長い筋肉は腱部にストレスがかかるので、狙っている筋肉を伸ばしにくいという理由もあります。
そこで私は腱鞘炎の治療ではマッサージをよく指導しています。
具体的には先ほど湿布を貼るべきとお伝えした前腕部をしっかりほぐしておきましょう。これだけでもだいぶ楽になるはずです。
あとパソコンのマウスやキーボードが原因となっているのであれば、マウスやキーボードを正しい姿勢で使うように指導するのと、親指で過度にスマートフォンを使っているのであれば、スマートフォンは両手で使うようにして人差し指で操作するようにしましょう。
腱鞘炎はサプリメントで治る?
腱鞘炎とインターネットで調べるとやたらにサプリを推している人がいますが、グルコサミン、コンドロイチンなどのサプリメントで腱鞘炎が治ることはありません。
どういうわけか日本ではサプリメントが薬のように宣伝されていますが、グルコサミンやコンドロイチンにはそんな効果はありません。
サプリメントを飲むなら医師から処方された薬を適切に貼ったり飲んだりするのと、理学療法士に指導されたリハビリをしっかり行ってください。その方がよほど効果があると思います。
腱鞘炎は放置していたら治るのか?
これも腱鞘炎で調べると「放置」使うというキーワードが関連ワードとして出てくるのですが、腱鞘炎は放置していても治りません。
「放置=安静」ならいいのですが、マウスやキーボードを今まで通り使ったり、スマートフォンを親指で使いまくって放置していたら腱鞘炎は良くなるどころか確実に悪化します。
整形外科の疾患は放置して治るものは少ないので、治療法に関して必ず医師の診察を受けて指示を仰いでください。
腱鞘炎は温泉で温めればよくなる?
温泉にかぎらず、腱鞘炎になった場合、温めるべきか冷やすべきか悩む人も多いです。
先ほどアイシングを指導するとお伝えしたように、熱感があるならしっかり冷やすべきです。
ただし慢性的な症状で、筋肉が凝り固まっているのであれば温めるのもいいでしょう。
腱鞘炎の治療期間は?全治どれくらい?
腱鞘炎のリハビリが始まったときによく聞かれるのが「どれくらいの期間で治りますか?」ということです。
全治までの期間については正直わかりません。人それぞれ症状の程度は違いますし、痛みがあっても無理にでも仕事で使わないといけない人もいれば、完全に安全にできる人もいるからです。
基本的にはしっかり治療を続けていれば痛みは改善していきますので、医師の指示に従ってじっくりと治療するようにしましょう。
腱鞘炎を予防するには?再発防止の対策とは?
ここまでいろいろ腱鞘炎についてお伝えしてきたのですが、そもそも腱鞘炎を予防するにはどうしたらいいのか、また腱鞘炎を治療して痛みがなくなった後、再発したくないという人もいるでしょう。
予防や再発防止にはどんな動作が腱鞘炎につながりそうか、それをご自身で見極めることが一番です。
たとえばパソコンのマウスやキーボード作業を過度に行う人であれば、作業時間を減らすか、サポーターで固定して負担を減らすしかありません。これはスマートフォンでもピアノでもギターでも、美容師のはさみでも同じです。
腱鞘炎で親指にテーピングを巻くのは辞めた方がいい理由
腱鞘炎でテーピングをすすめられることがあるのですが、私は腱鞘炎対策としてテーピングを使うことをはおすすめしません。
その理由は、
- 手の腱鞘炎の場合、片手でテーピングを巻かないといけないので、片手でテーピングを巻くのは難しい。
- 毎日取り替えないといけないので、テーピング代がけっこう高くつく。
- テーピングを巻いていると手が洗えない。(サポーターなら一時的に外すことも可能)
- テーピングはかぶれる可能性がサポーターよりも高い。
からです。
以上、腱鞘炎についてお伝えしました。参考になれば幸いです。